コロナウィルスの影響で2/29(土)よりJRAでも無観客競馬が開催され、またWINSでの発売も中止となりました。
この措置を受けて、巷では「競馬場やWINSでの馬券購入者(以下、現地購入者)はレベルが低いので、彼らがいなくなると稼ぎにくくなるのではないか」とか、この土日は1番人気がかなり勝利を収めていたことから「無観客競馬によって1番人気が勝ちやすくなったのではないか」というような発言を目をするようになりました。
私は「そんなに影響ないだろう」くらいに軽く考えていたのですが、とうけいばさんの以下のnoteを読んだことをきっかけに、ちょっとまじめに考えたり調べたりしてみましたので、その内容の一部をご紹介します。
1番人気馬の単勝回収率
無観客:115%
同日前年:76%無観客競馬は人気どおりの着順が目立ちました。
また中穴馬が思ったよりオッズついてない、と感じることも。
そこで無観客×オッズの影響を考察しました。【無観客競馬において、いつもより人気馬が好走した理由】
↓https://t.co/FD8cxCa2uc
↑ pic.twitter.com/OEmcaeTsoC— とうけいば (@to_keiba) March 2, 2020
なお、私の記事はとうけいばさんとは違った視点で書いているため、とうけいばさんのnoteは別途読んでみることをおススメします。
さて、今回私が考えたのは以下の2点です。
- 仮に本当に現地投票者が馬券下手だとして、彼らがいなくなるとどれくらい稼ぎにくくなるのか
- 馬券上級者だと思われるシステム投票者は、どれくらいオッズに影響を与えているのか
以下、順に述べていきます。
目次
現地投票者がいなくなる影響は本当に大きいのか?
ここでは、ネット投票者は馬券上手で現地投票者が馬券下手だということを前提に、以下の仮定を置いて話を進めます。
- 無観客競馬により馬券の売上が20%程度下がったとのことなので、純然たる現地投票者は全体の20%程度である
- ネット投票者はとても優秀であり、本来の各馬の勝率に応じた支持率(シェア)で馬券を購入できる
- 現地投票者は馬の強さをまったく見分けることができず、すべての馬をランダムに均等買いする程度の能力しかない
この前提に立つ場合、仮に出走馬4頭のレースがあったとすると、得票数やオッズは以下の様な形になるケースが考えられます。
先ほどの仮定に基づき、ネット投票者は本来の勝率通りのシェアで投票し、現地投票者は各馬に均等に投票します。
この場合は現地投票者のシェアは全馬に対して25%ずつとなりますから、AやBの馬は過小評価、CやDの馬は過大評価されていることになります。
実際の競馬でも人気薄の馬は過大評価される傾向にありますから、今回の例も違和感なく受け止めてもらえる方も多いかと思います。
さて、この状況から無観客競馬によって現地投票者がいなくなったらどうなるでしょうか。
ネット投票者のシェアはそのままで現地投票者が0になるだけなので、以下の表のような形になります。
ここで見てほしいのはオッズなのですが、現地投票者がいなくなる前後において、A、B、Cのオッズには大きな変化はありませんが、Dのオッズだけは大きく変わっています。
これはもともとの投票数が小さい人気薄の馬の方が「5票の減少」による影響を強く受けるためです。
よって、現地投票者が本当に馬券下手ならば、彼らがいなくなることによって穴党が従来より稼ぎやすくなるという変化があると思います。
人気馬は多少オッズが辛くなりますが、体感できるほどの変化はないと思います。
ただし、実際には現地投票者がここまで下手ということはないと思いますし、実際にこの2日間の単勝人気8番人気以降の馬の回収率は64.4%と相変わらず穴馬の回収率は低いままです。
(人気薄馬の2日間のデータなどあてにはなりませんが)
以上より、「現地投票者が仮に馬券下手だったとしても、彼らがいなくなることは穴党にとって喜ばしいという以外に大きな影響はない」と言えると思います。
ネット投票者の中でも馬券上手な層の影響
現地投票者がいなくなる影響として、次に「ネット投票者の中でも馬券上手な人の影響力が強くなる」というものが考えれます。
この点についてはとうけいばさんの説明がわかりやすいと思うので冒頭でご紹介したnoteをご覧いただくとよいと思います。
ここで、私も「AIなどシステム投票を行う人のレベルは総じて高い」という点についてはとうけいばさんとは同意見ですので、システム投票者の特徴である「締め切り間際の投票」がオッズや人気に与える影響を実際のレースで調べてみたいと思います。
日曜日のメインレースでどのような影響があったか
ここでは、皆さんの印象も強いであろう3/1(日)のメインレースについて、ラスト5分前後のオッズや人気の変化を調べてみました。
もしシステム投票のレベルが高いのであれば好成績馬のオッズが5分間で低く変化しているはずだと考えられます。
なお、時系列オッズについてはTARGETを利用させていただきました。
中山記念
レース順は実際とは異なりますが、グレードの高いG2中山記念から見てみたいと思います。
色付きの行は1~3着馬です。
このレースを勝ったのは1番人気のダノンキングリーですが、見事にラスト5分間でオッズが大きく低下しています。
このレースに関してはシステム投票者の見立ては正しかったと言えそうです。
ただ、個人的には「システム投票者も1番人気をこんなにガシガシ買うんだな」と言う点が意外でした。
彼らは期待値の観点から低オッズを嫌うイメージがあったので。
ともあれ他のレースも見てみましょう。
阪急杯
続いてG3の阪急杯です。
こちらは6番人気のベストアクターが勝ちましたが、残念ながら直前から確定にかけてはオッズが高くなっています。
一方でマイスタイルやクリノガウディーの方が最後に人気化していましたが、どちらの馬も凡走。
このレースに関してはシステム投票の優秀さは確認できませんでした。
豊明ステークス
最後に中京メインの豊明ステークスです。
こちらは1番人気のタイセイアベニールが勝ちましたが、この馬のオッズの方は直前と確定でほとんど変化していません。
一方で2着には直前から確定の間にかなり人気を落としたミュージアムヒルが入っています。
他にも最後の数分で大きく馬券を買われた馬たち(オッズ変化率がマイナスの馬たち)の成績が芳しくなく、このレースでもシステム投票の優秀さは表に出てきませんでした。
もっとも、本当に馬券で大きな収支を上げている人でも成績の波は激しく、月単位の収支がマイナスということも珍しくないと思います。
少なくとも個別レースレベルで体感できるほどには、システム投票によるオッズへの影響はないのではないか、というのが私の考えです。
一方、特に全体的に目についたのは「超人気薄馬はシステム投資家から嫌われている」という点です。
いずれも急激にオッズが高くなっている馬が多く、やはり上級者は期待値が明らかに低い馬には手を出さないのではないかと考えられます。
1番人気の勝率が高かったのは「上級者の購入で1番人気に繰り上がった馬が多い」から?
次に、先週の土日とも1番人気が多く勝利を収めたことで「これは優秀な投票者の割合が増えたためで、通常であれば2番人気以降のはずの馬が1番人気に推されたからではないか」という意見をちらほら見かけます。
現地投票者が20%減ったくらいでは下位の馬が1番人気に繰り上がるほどの影響はないだろうことは初めの例からも想像がつきますが、せっかくなので調べてみました。
以下の表は3/1(日)に1番人気で勝利した馬の最後の5分前後のオッズおよび人気順の変化を表しています。
(目視&手入力なので誤りがあったらすみません。もし見つけたら教えて下さい。)
こうしてみるとほんとによく1番人気が勝っていますね。
色々な理由を勘繰りたくなるのも無理はありません。
ただし、直前の変化で1番人気以外から1番人気に変わった馬は色のついた3頭のみで、すべて2番人気からの変化です。
ほとんどの馬はシステム投票者の投票の影響がなかったとしてももともと1番人気に推されていた馬です。
また、3番人気以降の馬が1番人気になるような急激な変化も起こっていません。
よって「現地投票者がいなくなったことが原因で1番人気の馬が勝ちまくった」と言うのは無理があると思います。
では、なぜ1番人気の馬がこんなに勝っていたのかという疑問に対しては、以下の2つが考えられると思います。
- たまたま
- とうけいばさんのnoteの仮説1のような理由
前者に関しては、72レース消化して1番人気の勝率が50%前後というのは確率的には十分にあり得る範囲なので、翌週以降はまた通常の30%程度の勝率に戻ることも考えられます。
後者に関してはとうけいばさんのnoteに説明を委ねますが、仮にその仮説の影響があるにしてもこの勝率がしばらく続く可能性は低いのではないかと見ています。
いずれにしても来週以降に注目ですね。
なお、今後はAIのシェアが徐々に上がってくるとは思いますが、今回述べたようにシステム投票の影響に対してはまだそれほど過敏になる必要はないと思います。
何か大きな出来事があると様々な憶測が飛び交いますが、冷静にデータにあたって影響を見極めることが大切です。
以上、無投票競馬の影響とシステム投票者の影響について、実際のレース結果も交えながら私の考えを述べてみました。
異論は大歓迎ですので、お気づきの点がありましたらぜひコメントなどお寄せ下さい。